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しのげ!退屈くん

ノベルティ・グッズ

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しのげ!退屈くん

文:安田謙一画:辻井タカヒロ

 粗品のアルバム『星彩と大義のアリア』(ユニヴァーサル UCCY-1123)ばかり聴いている。今もまた、流している。

 最初はサブスク・サービスの配信で聴いていたけど、むずむずして来てCDを買った。CDと2枚のDVDがセットになった初回限定盤と迷って通常盤を買ったけど、少し後悔している。そのうちアナログ盤が出るなら、必ず買おうと考えている。

 全曲の作詞・作曲・編曲とプロデュースを粗品が手がけている。粗品のギターとヴォーカル、元・赤い公園の藤本ひかりがベース、元・セプテンバーミーの岸波藍のトリオで、シンプルでエッジの効いたパンク・ロックを聴かせる。

 1曲目「オーディンの騎行」でいきなり飛び出す粗品の歌声は、霜降り明星の漫才で披露する「野党!」のツッコミのように野太い。曲によって歌唱法は変わるが、どこを切っても全身全霊で歌っている。迷わず、ザ・ブルーハーツ的と呼んでしかるべき音楽だ。性急なビート、詩情とニヒルが同居する歌詞、メロディとの調和はバズコックスに通じる。粗品は令和のピート・シェリーである。

 粗品を音楽とむすびつけて意識したのは、ちょうど10年前にラジオ「笑い飯の金曜お楽しみアワー」。番組の中で結成された童貞芸人ユニット、エナジー・ボーイズのオリジナル曲「止まらないエナジー」の彼(アーティスト名はソシャイナ!)による作詞とヴォーカルを聴いて、童貞というテーマを見事に扱った歌詞と、歌の表現力に、器用な子が出てきたなあと感心したのだった。

 ラジオといえば、松本亀吉がポッドキャストで過去回を聴きまくっている「霜降り明星のオールナイトニッポン」。2023年8月11日に放送された、粗品の多重録音による一人二役芸は凄まじかった。録音芸術の妙味は何度聴いても痺れる。笑いを含めた「間」を考えるうえで、これ以上のサンプルは存在しないだろう。ちなみに、これは同番組の2020年6月19日放送回の、せいやが2時間一心不乱にボケ続ける、という神回へのアンサーにもなっている。

 アルバム『星彩と大義のアリア』に話を戻す。「不条理な外連味」は学校が嫌で嫌でたまらない歌だ。アリス・クーパー「スクールズ・アウト」にも描き切れない灰色の風景が目にうかぶ。「周りの目どうでもいいから狂気に満ちとけ」の一節がもう見えなくなったカサブタをつんつん突いてくる。

 「逃げも隠れもしないから 世界が変われよ」と歌う「サルバドールサーガ」は植木等「だまって俺についてこい」と同じ、圧倒的な肯定感で誰をも、そう、私までも勇気づけてくれる。

 「はるばらぱれ」は多感な十代に死別した父親へむけた、ピチカート・ファイヴ「メッセーシ・ソング」のベクトルを「うしろ」に回したような歌だ。山田太一「異人たちの夏」の世界を痛快に歌い飛ばす。

 「風炎のデージー」、「翌貿の薦濯祉」などの曲名が意味するところは、まだ、よくわからないでいる。「ビームが撃てたらいいのに」とは60歳を越えた私も年に三度くらいは考えることがある。

 にしても、粗品というネーミング。
 意味とフォルムともに、なんてパンクなんだろう。