おはよう山彦さん
しのげ!退屈くん
文:安田謙一画:辻井タカヒロ
ハングル混じりでお届けします。
23年の10月、2日間にわたって大阪は北加賀屋で行われたフリーマーケットで、ご家庭で不要になった古本、古雑誌、古レコードなどを販売した。
その二日目に、販売ブースの真ん前の特設会場で韓国から来たシンガー&ソングライター、イ・ミンフィ(이민휘)がライヴを行った。フォーク調のヴォーカルと、絶妙の音量(これ重要)にコントロールされたキーボードの音色に、只者じゃないな、と強く意識した。その夜、イベントの印刷物で彼女のプロフィールを見ていると、なんと、ムキムキマンマンス(무키무키만만수)のメンバーだったと書かれている。ビックリして「イ・ミンフィって元ムキムキマンマンスだったのか!」とXでポスト(2023年7月24日までは、ツイッターでツイート)したところ、韓国と日本をロックで結ぶアンバサダー、長谷川陽平さんから「ムキムキマンマンス、先日アナログ化しましたよー!」とリアクションがあった。さらに、「希望でしたら買っておきます」というご厚意に甘えることにした。
ムキとマンス(こっちがイ・ミンフィ)の二人組、ムキムキマンマンスはレインコーツとバイオレント・ファムスを足して割り忘れたようなノンシャランとしたフォーク・パンク・バンド。唯一のアルバム『2012』(2012年)は二人が(おそらく)銭湯の湯舟に浸かっているジャケ写に魅せられて、愛聴盤となった。
2024年の1月3日、大阪のキングジョー宅で新年会があり、そこで長谷川さんから『2012』のアナログをありがたいことにプレゼントしていただいた。ジャケは見開きになり、ブックレットも大判で再現されている。
その翌日、1月4日に彦根の山の湯という廃業した銭湯で行われている古本とレコードの市に出向いた。湯浅学さんとふたりで湯のない浴槽に入ってお喋りしながら、好きなレコードをかけるという出し物で、迷わず、ムキムキマンマンスの銭湯ジャケを持っていった。
アルバムからサヌリム(산울림)のカヴァー「僕が告白したらビックリするよ(내가 고백을 하면 깜짝 놀랄거야)」を大きな音で再生した。サヌリムは77年に結成された韓国ロック、最重要と言っても過言ではない3人組兄弟バンド。韓国ドラマ/映画のファンにはリーダーのキム・チャンワンを俳優として認識している人も多いだろう。
そもそも、サヌリムというバンドをはじめて知ったのは湯浅さんが選曲し、ライナーを書かれた1987年の彼らの日本盤アルバムで、タイトルは「僕が告白したらビックリするよ The Best Of The Sanullim Vol.2」だった。これも発売当時、聴きまくった。友人(たとえば辻井タカヒロさん)が家に来るたびに、「どうだ」と、これを再生した。電気グルーヴ(当時は人生)の石野卓球は、このCDを聴くためにCDプレイヤーを買った、という逸話もある。
音楽が終わって、曲紹介を湯浅さんにお願いした。その口から「僕が告白したらビックリするよ」という言葉が出たときは、うっとりとした気持ちになった。ムキムキマンマンスはジャケ買いだったけれど、サヌリムはタイトル(邦題)買いだった。サヌリムは「山彦」を意味する。出来すぎだ。