ロック・ロブスター褒め殺し
しのげ!退屈くん
文:安田謙一画:辻井タカヒロ
もしも、清水寺の奥の院舞台で貫主の森清範が揮毫するのが「今年の漢字1文字」ではなく、「今年のカタカナ8文字(ナカグロは数えず)だったら「ロック・ロブスター」、さらに「今年のアルファベット11文字(ブランク無視)だったら「ROCK LOBSTER」となるだろう。
2024年はしみじみ「ロック・ロブスター」の年でした。そう(広瀬香美風に)思いませ〜んか〜? 思いませんか。そうですか。
「ロック・ロブスター」は米ジョージア州アセンズ出身のザ・B−52ズの、78年4月、地元DBレコーズからのデビュー曲。翌79年、ワーナーと契約後に、再録。メジャー・デビュー曲として80年1月にリリースされた。作詞はヴォーカルのフレッド・シュナイダー、作曲はギターのリッキー・ウィルソン。めっちゃくちゃ好きな曲です。
このロック・ロブスターが2024の年に、私に前に3度現れたのだから、驚いた。
旅行中のバミューダ諸島のクラブで「ロック・ロブスター」を聴いて、ヨーコの音楽そっくり!、と感激したのはジョン・レノン。この曲に背中を押されるように主夫生活から復帰、アルバム『ダブル・ファンタジー』として発表されることになる新曲の録音をはじめた。……という挿話は知っていたが、それを中心にジョンにとって最晩年となる1980年に、彼がどんな曲を好んで聴いていたかをジャーナリストのティム・イングリッシュが書いた『JOHN LENNON 1980 PLAYLIST』という本(出版は2020年)をペーパーバック版で読んだのが、まずひとつめ。
もうひとつは、エミとゲルの「おかしな竜宮城」。24年発売のセカンド・アルバム『魅惑のエミとゲル〜ヒット・アンド・モア』(Pヴァイン)に収録されたこの曲で「ロック・ロブスター」のパスティーシュをキメた。ヴォーカリストのエミことエミーリーは、シンディ・ウィルソンとケイト・ピアソンの二人の役割を器用にこなして、コンブやクラゲやハマグリと海の幸を歌い込む。マイケル・カコヤニス監督の映画「魚が出てきた日」のダンス・シーンを思い出させる、この曲をラリった竜宮城に転換するワザは、和モノを極めるゲルこと松石ゲルならではのセンスとパワー。ゲルさん曰く、「ロック・ロブスター、10本の指に入るくらい好きな曲」。ミー・トゥー!
トドメは「ロック・ロブスター」をバハマのコンパス・ポイント・スタジオで録音し直したプロデューサー、クリス・ブラックウェルによる自伝『アイランダー クリス・ブラックウェル自伝』(アルテスパブリッシング)。同書の中でブラックウェルは「ロック・ロブスター」をこう褒め称える。
「ロック・ロブスター」のリズムはいかれているが実にタイトで、(中略)それは聴いた途端にポップソングの古典のように思わせたが、彼らはそれをたいしたことではない、翌る日には別のものに取って代わられるだろうとでも言うように、しかしたまらないほど魅力的なエネルギーで演奏していた。
(訳:吉成伸幸)
おまけ。2024年でもっとも「漫筆」を感じたのは、オーサカクレオパトラの漫才(M-1グランプリ 準々決勝)でのボケ「みなさん、お気づきでしょうか。僕はなにも気づいていません」でした。