帰ってきたぞ 帰ってきたぞ
しのげ!退屈くん
文:安田謙一画:辻井タカヒロ
2023年はビートルズが新しい曲を、ローリング・ストーンズが新しいアルバムを発表した年として、これからも記憶されることだろう。
いや、すぐに忘れちゃうかも。
では、言い直そう。
2023年はビートルズがひどいジャケットのシングルを、ローリング・ストーンズがひどいジャケットのアルバムを発表した年として、私は記憶するかもしれない。
ジョン・レノンの遺品となったデモ・テープから、彼のヴォーカルだけを抜き取って、なんだかんだと加工して、「最後の新曲」というラベルをつけて商品化したのがビートルズの「ナウ・アンド・ゼン」。ネットで最初にこのスリーヴ・アートを見たときは、頭を抱えてしまった。かつて、新譜についての記事でジャケット写真が雑誌の掲載に間に合わなかったときに使われた「NOW PRINTING」を思い出させる素っ気なさ。愛想が無いにもほどがある。
私は思わずX(旧ツイッター)でこう呟いた(現ポストした)。
———ビートルズ「ナウ&ゼン」のロシア土産みたいなスリーブ、デザイナーへの大喜利のお題だと受け取った。———
数日後、このツイート(現ポスト)を読んだ知人が、フリーマーケットで店番をしていた私の前に現われて、
「あのジャケットは、ポップ・アートの巨匠、エド・ルシェの作ですよ」と、教えていただいた。
えー、そうなんですかー!、と口にしながら、心の中で、知らんがな、とリアクション。私の人生の中で、これほどピュアな「知らんがな」もそうはない。
あとでエド・ルシェのことを調べてみると、言葉と広告をモチーフとした作家で、そう言われてみると「ナウ・アンド・ゼン」もその道を外れてはいない。自分の中の「ロシア土産」という印象が米国のポップ・アートと結びついたことが、なかなか深いなあ、と思ったりもした。
ちなみに、ローリング・ストーンズ『ハックニー・ダイアモンズ』は「メキシコ土産」という風情がある。
さて、ジャケの話は抜きにして、「ナウ・アンド・ゼン」と『ハックニ—・ダイアモンズ』を並べると、生きているメンバーの意思がしっかり反映されているという点において『ハックニー・ダイアモンズ』に軍配があがる。出来不出来以前に、なんというか健全である。
ただ、『ハックニー・ダイアモンズ』にしてもメンバーの意思だけの産物とは言いきれないし、ビートルズが解散から半世紀経って、こういう形でシングルを出す、という運命にあった、という説も成り立つ。
世の中、そういうところがあるのだ……ということで、安田謙一(文)と辻井タカヒロ(画)のコンビがここに帰ってきた。何はともあれ、「ロックンロールストーブリーグ」、「書をステディ町へレディゴー」に続くタイトルを考える。
以前からクラウドベリー・ジャムのアルバム「雰囲気づくり」という邦題が好きで、そこから「退屈しのぎ」というタイトルを思いつく。せっかくなので、日本で一番売れたシングル曲のタイトルにちなみ、「しのげ!退屈くん」とした。ちなみに「ゆすれ! 貧乏くん」というのも考えたのだが、年をとるにつれて「しのぐ」という言葉にポジティヴな意味を感じるので、こっちにしました。
辻井タカヒロ情報
新春さんずい絵馬揮毫会
2024年1月27日(土曜) 14:00〜19:00ごろ
会場:さんずい
お座敷DJ: 安田謙一・DJ KANEIWA ・DJ MUJIN
昨年に引き続き、新春さんずい絵馬揮毫会を開催。
入場無料ですので、銭湯ついでにぜひお気軽に!