誠光社

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足りない「もの」を作る

鷹匠と餌合子

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足りない「もの」を作る

とある鷹匠から「餌合子を作れないか」という話があった。

餌合子(エゴウシ)とは鷹の弁当箱のような道具である。普段は鷹匠が中に餌の肉片を入れ、漆皮で出来たケースに収めて腰にぶら下げている。遠く離れている鷹を呼び戻す際には、餌合子の蓋と身をカスタネットのように打ち付け、その音で鷹を操る。

鷹匠さんと鷹

昔は木で作られていたが、今では樹脂製のものが販売されており、それが主流となっているらしい。

その鷹匠は昔使われていたような木製のものを求めているとのことだった。昔のものといっても様々あったようだが、今回求められているのは蒔絵が施されたような上等な品というわけではなく、実用性の高い簡素なものである。おおまかな寸法等を記した資料も持っているようだったので、道具の要点や用いられる場面の一連の流れを聞いた後、作ってみることになった。

試作した餌合子。専門性の高い特殊な道具の魅力に惹かれて、作ってみることに

鷹匠のことを詳しく知らなかったので、どういう人達なのか、昔と今では何が違うのかといった雑談をしつつ準備を進めた。

国内外の鷹狩り文化の現状や、鷹との生活の実状など珍しい話題に聞き入ることもあった。

現代日本でもいくつか大きな流派があったり個人で活動している猟師もいるそうだが、やはり兼業の人が多いようで、それはそれでどのような仕事を兼ねているのかが気になるところだ。聞いたところ個人事業主で時間に融通がきく人や社長業の人達が多いらしいが、20年も生きる大きな鷹と生活し、毎日何時間も腕に乗せて散歩したり広い場所に放って訓練したり出来るのはかなり限られた人達だろうと思う。面白い世界だ。

カスタネットのように叩く音で鷹を呼び寄せる

餌合子の制作にあたり図面や見本をあらためて見ると、シンプルな形だが手の込んだつくりをしている。深く彫りこむ部分や、握ると軽く開く蓋の噛み合わせ精度、漆での仕上げなど、時間がかかる上に加工の難易度が高い上、音の良し悪しもあるとすれば使ってみないと分からない。

「昔は皆自分達で作っていた」と聞いたこともあるが、「自分達」というのがミソで、鷹匠のコミュニティの中に鷹狩りに精通した道具作り担当の技術者がいたのではないだろうか。

もしくは人里を離れ個人で鷹狩りを生業としていた人であれば、各々が自分に合った使いやすい(作りやすい、直しやすいことを含めた)形を持っていた場合もあるかもしれない。

いずれにせよ単に人間の使い勝手の都合だけでなく、鷹との共生関係や狩猟生活の中で形作られ、洗練されてきた道具だというところが興味深い。

使いやすさという意味においては現在の樹脂製の一般的なものが一番だが、利便性だけではない、これまで長い年月用いられてきた素材・製法の意味を考える人がいるのも当然のことのように思う。

一つの道具を通してその世界の歴史や精神性を垣間見ることが出来る。これだから専門家の使う道具はおもしろい。