和井内洋介インタビュー 「むしろピカピカのフォードとかのほうがアメリカっぽい」
ギャラリートーク 作家さんに訊いてみた
ー今回の展示のコンセプトを教えて下さい。
最近スバルの車を買ったんだけど、普段行かないカーディーラーにはじめて足を踏み入れて、「こんな身近に知らない世界が広がっていたんだ」とびっくりしたんです。清潔な建物で、ホワイトカラーの人たちがきれいな格好をして働いている。
その日の晩、ライフワークである、アメリカ郊外をストリートビューで散歩する際に、カーディーラー、アメリカだと”AUTO CENTER”とか”CAR DEALERSHIP”を探してみたというのがきっかけです。
ー普段やってるストリートビューでの徘徊と、自身の経験が重なったわけね。
普段は一つの街を歩き回るんだけど、今回は”AUTO CENTER”を起点にその周辺を探索したんです。一つあるところにはたくさんディーラーがあって、なおかつその周辺はやっぱりサバービアで、ファーストフード店とか、チェーン店が建ち並んでいる。
ーアメリカで車といえば、古いアメ車とか、いかにもなものを探しがちだけどそうじゃないのが面白い。
中古車のディーラーもあるんだけど、そういうところはどこか情緒にあふれていて、むしろピカピカのフォードとかのほうがアメリカっぽいかなと。
ー普通こういうチェーン店がならぶ光景って、本当は寒々しいものだし、日本だとどんよりしがちなんだけど、これがアメリカになるとカラッとしていてなにか訴えかけるような趣があるのってなんでだろうね。
日本の郊外だと土地が狭いので建物がギュウギュウ詰めで建っているんだけど、アメリカの場合土地が広いので余白があるし、開放感がある。あとやっぱり、チェーン店ロゴのポップさかなあ。
ー今回の作品集でも変わったマクドナルドのことが触れられていたね。
両サイドに看板が立っているという。ああいうのも日本ではなかなか観られない光景。
もともとなんでこれ(展示品の道路脇に並ぶチェーン店のフードピック)を作ろうと思ったかと言うと、ジャクソン・ブラウンの「テイク・イット・イージー」っていう曲にも出てくるアリゾナのウィンズローっていう街があって、そこをストリートビューで歩いていたら、建物の上の看板がフードピックに見えてきたんです。この看板でフードピック作ったら面白いかなと。
ー道が広いから高いところに看板を上げるのね。何度か訊いたことなんだけど、そもそもこういうサバービアの光景に惹かれるようになったきっかけってなんだろうね。
なんだろうね。親と一緒に観ていた80年代アメリカ映画の光景とかなのかなあ。
ー出身地でもある宮崎に少し重なる部分があるとか?
ただただ観察していたいだけで、住むつもりは全然ないんだけど、住んだらどんな感じなのかなっていうのはすごく興味あるけど。
ー今回の本もちょっとそういう疑似体験っていうか、カーディーラーで務める人の一日みたいなコンセプトだよね。
本をつくるにあたって、ロッキング・オンから出版されていたハーモニー・コリンの『クラックアップ』っていう本があるんだけど、その体裁とかテンションとかがとても好きで、フォントサイズとか細部を研究して今回に活かしたつもり。今回はテキストも書いてみたんだけど、いろんな引用とか、それっぽいテキストとか、冗談みたいなのを考えているときが楽しいんです。
ー僕らの時代、90年代ってシミュレーショニズムみたいな表現が流行ったけど、最近ではこういうのってあんまり見ないよね。
自分がインプットしてきたものをアウトプットしたらこうなったみたいな。ちょっとだけディスクガイドも巻末に掲載してるんだけど、曲の内容が郊外を歌っているのではなく、自分の中の記憶が郊外と結びつくようなものを選んでます。
ー最後におすすめのサバービア映画があれば教えて下さい。
やっぱり「シザーハンズ」のオープニングとか、「E.T.」とかかなあ。あとはリチャード・リンクレイターの「スラッカー」。変人ばっかり出てくる映画で、ストーリーなんてまるでないんだけど、ベックの過去のPVみたいな質感で、めちゃくちゃいい映画だなと。それはすごくサバービアを感じるなあ。
BALE HOUSE AUTO CENTER 和井内洋介作品展
2022.12.16 ー 2023.1.15
作品集「ESCAPE FROM SUBURBIA」1500円+税
会場にて販売中。
(会期終了後、オンラインショップでも販売予定です)